怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
 言いながらスマホを開いてみたけれど、父に昨夜送ったメールは未読のままだ。
 いい加減な性格なのにも程がある、と溜め息しか出なかった。

 というか、父の件は今の今まで忘れていた。
 それどころではなかったのだ。昨夜から私は自分のことで精一杯で、父を気にする心の余裕はゼロだった。


「いったいどこでなにをしてるんだか。連絡くらいいつでもできるのに。みなさんに迷惑をかけて申し訳ないです」
 

 肩をすぼめて小さく頭を下げると、九住さんは困ったようにフルフルと力なく首を横に振る。


「このままだと、大変なことが起こってしまいます……」

「え?」

「㈱グローイングが不渡りを出すかもしれません」


 九住さんから唐突に出たキーワードがうまく飲み込めなくて、私は「ん?」と小首をかしげた。


「待ってください。不渡りって……倒産するってことですか?!」


 不渡りとは、手形や小切手によって支払代金が正しく渡されない状態を言う。

 経営については私もけっこう勉強をしたつもりだけれど、まだまだ知識が足りなくて、その言葉を聞いただけでドキドキと鼓動が早まった。

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