怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
 私は一度自分の部屋に戻って美容液のボトルを持ち、再び庭で作業をする久米さんに窓辺から声をかけた。


「久米さん、これ、もうそろそろ無くなるころでしょ? 新しいの持って帰ってね」


 顔の高さまでボトルを掲げてほほえむ私を見て、久米さんがあわててこちらに飛んできた。


「何度ももらうわけにはいきませんよ! すごく高価なものなのに」

「そんなの気にしないでよ。うちで扱ってる商品なんだから」


 私の父は美容関連の事業をしている。㈱グローイングという社名で主にはエステサロンの経営だ。

 私は大学を卒業して父の会社で働き始めたのだが、以前から男性向けエステに力を入れていた父が、二年前に男性部門と女性部門で会社をふたつに分けた。コンサルタントの人たちと相談してそうなったらしい。
 その経営方針にはなにも文句はないけれど、自分は男性部門に専念するから、女性部門の会社の社長を私に任せると言いだしたのだ。

 父は私に有無を言わせない。
 社名を好きに付けていいという条件だけは飲んでもらい、私は二十四歳の若さでCEOに就任した。

 新しい社名は㈱マグノリア。母が好きだったモクレンからそう名付けた。
 だけど父はそれに気づいてはいないだろう。私がどうしてこの社名にしたのか聞いてすらこなかった。父は総じて家族には興味がない人なのだ。


「こんなハイブランド……冬璃さんのつやつやした肌と違って、私の顔なんてなにを塗っても同じです」


 久米さんが申し訳なさそうに眉尻を下げる。
 うちの会社でもスキンケア商品を取り扱っているので、私としてはいつもお世話になっている彼女にちょっとしたおすそ分けをした感覚にすぎないのに。

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