怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
「すみません、少しだけ彼女とふたりで話をさせてください」


 束縒は無表情でそう言って、いきなりスクッと立ち上がった。


「そうだな。冬璃さんもいきなりでビックリしてるだろうからな」


 会長からの言葉を受け取った束縒は、私に部屋の出入口を指し示した。
 とりあえずふたりとも無言で会長室を出る。


「あの、私……実は父から全然状況を聞けていないの。説明してくれないから……」


 束縒がキョロキョロと辺りを見回して、ほかに誰もいないか確認をした。
 ここは最上階の会長室前なので通行する人間はいないはずだが、念のためだろう。


「どこまで把握してる?」

「財務を担当してた工藤さんが横領して逃亡中で、支払い期日が迫ってるってところまで」


 通路の隅に移動し、私たちは立ち話を始める。
 眉間にシワを寄せる彼の表情を見る限り、私が来る前と後で状況が変わったのかもしれないと不安になった。


「工藤と懇意にしている会社があって、登記上の住所が神戸だったから佳洋さんはそこに向かったらしい。行ってみたら事務所はもぬけの殻だったそうだ。グルだったんだろうな。ヤツらはもう日本にはいない」

「それで、奪われたお金は?」

「すでにロンダリングされてるかも。ま、そっちは警察に任せるとして、問題は支払い期日のほうだ」

< 36 / 123 >

この作品をシェア

pagetop