怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
 シンクの前に立つ彼の手からスポンジを無理やり奪い取る。
 そこで束縒はようやくフッとあきれたように笑みを浮かべた。


「じゃあ、頼もうか。ありがとな」


 どうせ私のお皿も洗うのだし、鍋に残った料理を冷蔵庫に保存したりしなきゃいけない。
 そんな中、彼が自分のお皿だけ洗ってさっさと自室に行くのは、とても寂しく感じたから止めたのだ。


「シャワー浴びたら仕事する。もちろん冬璃は先に寝てていいから」

「うん」


 小さく返事をしながら汚れた食器を洗い桶の中に漬ける。

 ダイニングテーブルに戻って、ひとりで食事を再開したけれど、途中から涙の味がした。
 なぜ泣けてきたのかは謎だ。
 想像していた生活とはかなり違うと実感したからかもしれない。

 私はこの偽装結婚に、なにを期待していたのだろう。

 一応、寝室もあるので、そこに図々しくドレッサーを運びこんだのだけれど。
 私の部屋に移したほうがいいだろうか。
 そうなると同じベッドで寝るのもおかしい。

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