怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
 俺は冬璃に電話をかけて呼び出した。
 そして、とっさにウソをついたことを詫び、今はとりあえず口裏を合わせるように伝える。

 だけど彼女がここへ駆けつけるまでの時間、父はいろいろと考えていたようだ。
 口では冬璃に「久しぶりだね」などと言い、目を細めて穏やかに笑ってはいるが、この顔に騙されてはいけない。

 俺は父がどれだけ腹黒いか知っている。
 実の息子だからこそ見えてしまう部分もある。

 このときも、融資をする代わりになにを手に入れようかと思案して、冬璃の会社に目をつけたに違いない。
 葛城グループの子会社にして、自分の思い通りにしようという魂胆だ。
 “義理の娘”の会社ならば、そういう流れになっても不自然ではないから父は俺との入籍を急かせたのだろう。

 まずいことになった。
 でもそう思ったのは一瞬で、俺は違う方向に思考が傾いていく。

 本当に結婚してしまえばいいのではないか、と。

 そうすれば、遠慮なく俺が全力で冬璃を守ってやれる。
 彼女が俺との入籍をどうしても拒むならあきらめるしかないが、融資のことを条件に引き出されれば断れないはずだ。

 それに冬璃は失恋したばかりで弱っている。 
 少々強引だという自覚はあるけれど、見方を変えれば俺にとっては冬璃を手に入れる絶好の機会だ。
 
 とにかく入籍して、戸籍上だけでも俺のものにしておけばいい。
 あとはゆっくり、冬璃の目を俺に向けられれば。

 こういうところは“父親似”なのだと思う。俺もなかなか腹黒い。

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