怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
「話は変わりますが、佳洋(よしひろ)さんは今夜も出張から戻られないようです。明日の朝食は冷蔵庫にご用意しておきますので」

「いつもありがとうございます」


 “佳洋”とは父の名だ。おとといから神戸に出張しているのだけれど、いつ戻ってくるのやら。
 父はいつの間にか、私には自分の予定を一切伝えなくなった。
 食事の準備や帰宅の有無など、細かいことは父の秘書が久米さんにメールをしてくる形で済んでいる。

 ㈱マグノリアは㈱グローイングとは別会社なので、すべてのスケジュールを共有する必要もない。
 娘だからといって私に逐一予定を伝えなくてもいいと父は考えているのだろう。一緒に暮らしているというのに、とことんドライだ。

 私も父がどこでなにをしているのか気にならない。
 仕事をしようが女性とデートをしようが、好きにすればいい。

 そんなことよりも、私も今夜はデートだからそっちに思考を戻そう。
 もし憲一朗さんと付き合えたならみんなに自慢しまくりたいなと、頭の中を再び花畑にする。

 フフッと頬を緩めながら自室に戻り、デートに向けて身支度を始めた。

 クローゼットを開け、今日着て行く服を選ぼうとして、ふと自分の指に目がいく。
 仕事柄、手や指のケアは(おこた)ってはいないけれど、今夜のデートのためにネイルのデザインを変えようかな。
 待ち合わせにはまだ時間があるので、私はいつも通っているネイルサロンに電話をして急遽予約を入れた。
 
 お気に入りの白のワンピースを身にまとい、それに合わせて上品なアクセサリーをあしらう。メイクも濃くなりすぎないように。
 左の手首にはブレスレットタイプの腕時計をつけた。彼が私の誕生日にサプライズで贈ってくれたものだ。
 シックで知的なデザインを選んだあたりがとても彼らしい。

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