怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
「愛していないなら早く別れてください。あなたより私のほうが社長を幸せにできますから」


 一方的にそう吐き出したあと、諸角さんは人が変わったように秘書の顔に戻り、「ご無礼を申し上げました」と一礼をして部屋を出て行った。

 辛辣(しんらつ)な言葉を言われたはずなのに、私はなぜか怒りの感情は湧かなかった。
 彼女の言い分がなにも間違っていないからだろう。

 常に束縒のそばにいて支えてきたのは諸角さんだ。
 束縒がなにを考えているのか、なにを欲しているのか、彼の顔色ひとつでわかるくらいに。

 それに比べて私はどうなのか。
 自分も仕事があるからというのは言い訳で、束縒との関係を強固なものにしようと真剣に努力してこなかった。

 思い起こせば、同居初日に食事のことで彼のほうから壁を作られたような気になり、私が尻込みしてしまったのが大きい。
 だからといって、ひるんでどうする、と自分に言いたい。

 親身になって私を本気で心配してくれるのは誰なのかを考えたら、久米さんがいなくなった今、束縒しか思い浮かばない。

『社長に守られているあなたは不幸でもなんでもない』

 諸角さんの言葉が胸に刺さった。
 束縒みたいな包容力のある人と結婚できたのだから、もっと大事にしろという意見はもっともだ。はっきり言われても仕方がない。
 彼女は本気で束縒が好きだからこそ、こんな私に腹が立つのだろう。

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