怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
 この日、仕事を終えた私は帰りにスーパーに寄り、食材を買い込んで自宅に戻った。
 スマホでレシピを確認しながら、鍋でぐつぐつと肉じゃがを煮込む。
 
 味見をしてみたところ少し薄いように感じて、しょうゆを足して調整した。
 再び味をたしかめてみたものの、まだなにか足りない気がして首をひねる。やはり煮物は難しい。

 二十時を過ぎたころ、玄関扉が開く音がして束縒が帰宅した。


「おかえりなさい」

「ただいま」


 束縒は昼間に会ったときと変わらず顔色が良くない。
 平気そうにしているけれど、体調がかなり悪化しているのがすぐにわかった。


「肉じゃが、作ったのか?」

「うん。ほうれん草のおひたしもあるよ。でも……食欲がないんじゃない? お粥を作ろうか?」

「いや、肉じゃががいい」


 束縒は無理をして食べようとしているのだろうと、そんな考えが頭をよぎった。
 食べないと言えば、私が悲しい気持ちになると思って。

 束縒は愛想がないように見えるけれど、実は頭の回転が速く、きめ細かなやさしさを持っている人だ。
 自己顕示欲がないから、それをいちいち(おもて)に出さないだけ。

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