夜が明けたら君に幸せを。
汐江くんがハッとしたように私を見て、力なく笑った。



「…花音から、聞いた?俺の母親が浮気して出て行ったこと」


「あ…うん。ごめん」


「いや、いいよ。隠してるわけでもないからさ。…如月さんの言う通りだよ。怖いんだ。大切な誰かを作ってまた裏切られたらって思うと、すごく怖い」



汐江くんは私と似ている。


実の母親に裏切られた日を忘れられないんだ。



…私もずっと“あの日”にとらわれているから、わかる。



「…私、中学の頃に親友だと思っていた友達に裏切られたことがあるの。それだけじゃなくて、その二ヶ月後にたまたま外でお父さんが知らない女の人と腕を組んで歩いていたのを見たの。でもお父さんはその時出張だって言って三日間いないはずだったからおかしいなって思って、出張から帰ってきたお父さんに聞いちゃったの」



–––––『この前お父さんにすごくそっくりな人見つけたよ。でもその人、知らない女の人と腕組んでたしそもそもお父さん出張でいなかったから違うってすぐわかったけどね』



本当になんとなく、思い出したから聞いただけだった。


きっとお父さんも「なんだそれー?そんなわけないだろー」と笑うと思っていたから。



…なのにお父さんの反応は、全然思っていたものと違った。



「あの時の罪悪感の表情が今でも忘れられない…。私は、余計なことを言ってしまったんだってすぐに気づいた。お母さんはそのお父さんの反応で浮気していたことがわかって、離婚するのもあっという間だった」
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