夜が明けたら君に幸せを。
–––『ごめんな、明日香…』



そう言ってお父さんは出ていった。



今まで二人が喧嘩をしているとこなんて見たこともなかったし、あんなに仲がよかったのに。


どうして、こんなことになってしまったんだろう。



「…お母さん」



お酒の空き缶が詰まれたリビングの机で突っ伏して泣いているお母さんの背中をそっと触ろうとすると、ばっと勢いよく払われた。



「…なんで。今まで幸せに暮らしてきたのに、なんで…っ」



お母さんの初恋はお父さんなんだよ、とまだ幼かった私に照れくさそうに笑ったお母さんを思い出した。



お母さんはお父さんの浮気がわかってから毎日家で泣いていた。


仕事もまともに行けなくなり、家事も全部しなくなった。


得意じゃないはずなのにお酒ばかり飲むようになって、リビングはその空き缶でいっぱいだった。



「あんたなんて、産まなきゃよかった」



その一言で、ボロボロだった私の心はもう限界だった。


そこから人を信じることをやめた。もう傷つきたくなかったから。



「…だけど、今は汐江くんたちのおかげで変われた」
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