狂った雷
ヤクサの低い声に杏は細めていた目を開き、自身の着ている着物を見つめる。橙色に小花が描かれた着物は、婚約が決まった頃にあの男性から贈られたものだった。杏の好みではないものの、「婚約者から贈られたものでしょう」と母に言われ、時々袖を通していたのである。

「実はそうです。ヤクサ様、どうしてわかったんですか?」

杏は訊ねたものの、ヤクサは質問には答えることはなかった。ただ気難しそうな顔をして、「その着物は気に入らぬ」と呟く。

「お前にはこっちの方が似合うだろう」

ヤクサはそう言い、指をパチンと鳴らした。すると、雷のような青白い光が杏を包み込み、光が消えると彼女は橙色の着物ではなく白無垢を見に纏っていた。

「えっ……これは……?」

理解が追いつかず戸惑う杏の手を、まるで割れ物に触れるかのように優しい手つきでヤクサが包んだ。その頬は赤く染まり、目は優しげに細められている。

「我が見え、我に触れられる時点でお前は特別なのだ。我の妻となり、身も心も我に捧げよ」
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