狂った雷
幼い頃、父が出張先から帰って来た時、杏が貰ったのは西洋の童話集だった。たくさんの童話が集められた分厚い本の中で、杏が特に気に入ったのは、いじめられていた女の子がお姫様になるお話だ。

継母と意地悪な姉たちにいじめられていた女の子は、舞踏会の夜に魔法使いのおばあさんに魔法をかけられ、ガラスの靴と美しいドレスを見に纏い、カボチャの馬車で王子様の待つお城へ向かう。

王子様に見初められた女の子は十二時にの鐘が鳴ったらお城から帰ってしまうものの、運命で結ばれた二人は結婚することができ、女の子はお姫様になった。そして王子様は女の子を深く愛し、二人は永遠の幸せを手に入れるのだ。

童話に登場する王子様は、お姫様だけを見つめ、お姫様だけを愛している。自分もこんな結婚をするのだと杏は信じて疑わなかった。だが、現実の世界はとても苦く残酷である。

「もう嫌……どうしたらいいの……」

走り続けて息が上がり、疲れ果てた杏は近くにあった神社へと入る。神社に植えられている木にもたれかかり、その場にしゃがみ込んだ。
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