狂った雷
「杏、結婚式の時にはこれを着なさい。母さんもこれを着たのよ」

タンスの奥から母が白無垢を取り出し、嬉しそうに杏に見せる。純白の美しい着物を見て、杏の顔は少し強張ってしまう。もしもあの日、あんな光景を見なければ、この白無垢を見て彼と夫婦になる日を楽しみにしていたかもしれない。

「杏?」

母に名前を呼ばれ、杏は慌てて笑顔を作る。そして、結婚することに緊張していることなどを話した。もちろん嘘である。

「お前はあの名家に嫁ぐんだ。不安がることはない。あの家との繋がりができるなど、こんな光栄なことはないんだからな」

まだ昼間だというのに酒を煽っている父が言う。母も「そうよ」と首を縦に振り、杏はこの二人は名家と繋がれることしか見ていないのねと悲しくなってしまう。

その時、彼女の視界を黒いものが横切った。それは庭の木に止まり、「カァ」と鳴く。烏だ。だが、普通の烏とは違い足が三本ある。

(あの子は、八咫烏……!)
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