ここに、いるよ。
 さくが昔を思い出させるから

 さくが冷たくなるから

 さくが
 さくが
 さくが



 昔の気持ちが押し寄せた

 これまでの気持ちが押し寄せた

 そして
 これからを思う気持ちが、やってきた――



「……泣いちゃったね」



 僕は、泣いていた。



 不思議だった。

 悲しいでも
 苦しいでも
 痛いわけでもないのに

 心に穴が開いて
 吹く風が冷たくて
 暖かい気持ちが恋しくて

 誰かに何かを言いたくて
 何処かの誰かに会いたくて

 僕は、泣いていた。



 これが、淋しいというなら。

 僕は確かに淋しかった。

 僕はとても淋しかった。



「クロ――――」



 涙で濡れた頬をごしごしこする。乱暴だったけど、嫌いじゃなかった。

 さくは、まだ此処にいる。

 月のように優しい微笑みを浮かべて。


「いいことを教えてあげる」


 さあ、と手を離した。


「立って」


 追い付きたくて

 離れたくなくて

 逢いたくて

 僕は、立った。


「ねぇ」


 一緒に言おう。


 さくは

 さくも

 淋しいんだ。



 真っすぐ見つめ逢う。

 月に消えてしまうさく。

 手を延ばしても届かない僕。


 でも、言葉は繋がる。



「淋しいときはね、こういうんだよ」





 ――ここに、いるよ。――







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