君が好きなだけ。
目が合ったら、初めて好きと言われた時を思い出した。





「……彩海、」



「…っ、5名様ですね、こちらへどうぞ」




2年生になった始業式の後、バイトを入れていた。



そのバイト先のカフェに訪れてきたのは、……中学の時付き合っていた彼、とその友だち。




知らない人のふりをして、他のお客さんと同じように。
6人がけの席に案内して、定番のセリフを言って席を離れた。少し早口だったかもしれないけど、そんなのは気にしてられない。




誰かからの視線をビシバシ受けた気もするけど、一切目を向けずとりあえずホールから引いた。




「……、びっくりしたっ!」



裏の休憩室で、頭を抱える。



あんな別れ方をしてしまった手前、もう私は彼に会わないと決めていた。



なのに……、




「なんでこんな離れたとこのカフェに来るの……」




私の通う白雪学園と私の家の最寄りの中間くらいにある駅の前に立つこのカフェ。



学校が反対方向なはずの彼にとっては、結構な距離のはず。



「……制服、星桜学園のだったな、」



塾で会っていた頃、まだ付き合う前。
俺、この学校目指してるんだよね、って言って見せてきたのは星桜学園のパンフレットだった。星桜学園は、ここら辺1番の進学校。難易度は高いなんてもんじゃない。



それを叶えたんだ。実力で。



「やっぱり、あの時離れて正解だったよね、」



そう思うと、なんだかいろんなことが吹っ切れた気がした。



「よし、戻ろう!」



大丈夫。だって、もうこれっきりだよ。2人で話すわけじゃない。……大丈夫。




ホールに戻り、注文を取ったり、お皿とかを片付けたり。



だんだん多くなるお客さんに気が紛れた。いつもは混むと嫌だけど、今日はありがたかった。



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