3年後離婚するはずが、敏腕ドクターの切愛には抗えない
 祖母はどんな思いで祖父との思い出が詰まった家を売り、施設に入ることを決めたんだろう。

 片付け終わったものの、キッチンから出ることなく呆然と立ち尽くしていると、着替えを済ませた理人さんが入ってきた。

「野々花、珈琲でも飲む?」

「あ……そうですね」

 すぐに準備をしようとしたけれど、理人さんに背中を押された。

「俺が淹れるから野々花は休んでてくれ」

「え? でも」

「いいから」

 そのまま彼に追い出されてしまった。お言葉に甘えてリビングのソファに腰かけた。少ししてキッチンから珈琲の芳しい香りが漂ってきた。

「おまたせ」

「ありがとうございます」

 私にカップを渡すと、理人さんは隣に座った。

「いただきます」

「どうぞ」

 いつも使っている珈琲豆なのに、不思議と理人さんに淹れてもらった珈琲が美味しく感じてしまう。

「今日は色々あって疲れただろ? ……大丈夫か?」

「……はい」

 笑顔を取り繕って珈琲を飲む。
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