3年後離婚するはずが、敏腕ドクターの切愛には抗えない
突然の名前呼びに動揺する私とは違い、高清水先生は余裕たっぷりに私の手を引いて歩を進めた。

「夫婦になるのだから、手を繋ぐのも名前で呼ぶのも当然だろ? 野々花も理人って呼べよ」

「そんなっ……!」

 呼び捨てなんて恐れ多いし、ハードルが高すぎる。だけど、契約とはいえお互いの家族に疑われないためにも名前で呼ぶべきかな?

「じゃあ……理人さんでいいでしょうか?」

「他人行儀な気がするが……まぁ、いいだろう」

 会計場所に着くと、繋いでいた手を離して彼はカードを店員に渡した。

「彼女の分も一緒に」

「かしこまりました」

「ちょっと待ってください、自分の分は払いますから」

 慌てて財布を出そうとする私の手を再び握って止められてしまった。

「いいから」

「でも……」

 三万円もするコース料理だ。気軽に奢ってもらえる金額ではない。
 しかし高清水先生は支払いを済ませてしまい、レストランを後にした。

「すみませんでした」

「こういう時は〝すみません〟じゃなくて、〝ありがとう〟と言ってもらえたほうが俺は嬉しい」

 すぐに謝るとそう言われてしまった。
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