3年後離婚するはずが、敏腕ドクターの切愛には抗えない
 口をパクパクさせるだけしかできずにいる中、彼の父はわざとらしく咳払いをした。

「仲が良いのはわかったから、早くこちらに座りなさい」

 どうやら彼の両親の目にはそう映ったようで、父同様、母も気まずそうに目を伏せた。

 理人さんと交わした条件のひとつに、『家族や病院内では円満夫婦を演じること』がある。それを実行しただけに過ぎないのに、絶対に今の私の顔は真っ赤に違いない。
 それが恥ずかしくて、理人さんの顔をまともに見ることができなくなってしまう。

「行こう、野々花」

「は、はい」

 両親がいるソファに移動する時も理人さんの手は、私の腰に回されたまま。それはソファに並んで座ってからも続いた。

「理人、初めて顔を合わせる場でもあるんだ。少し離れたらどうだ?」

 父の言う通りだ、これでは挨拶どころではない。しかし理人さんは一向に私から離れようとしなかった。

「べつにこのままでもいいだろ? 父さん、母さん。こちらが泉野々花さん。俺は彼女とできるだけ早くに結婚するつもりだ」

 最悪なかたちで紹介され、慌てて私も頭を下げた。
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