3年後離婚するはずが、敏腕ドクターの切愛には抗えない
 後ろ姿しか見えない彼に結婚を持ちかけるのもどうかと思うが、この際相手がどんな人だっていい。身なりは良さそうだし、髪も短くて清潔感がある。変な人ではないはず。

 残りの珈琲を一気に飲み干して気合いを入れ、立ち上がった。
 バクバクと心臓が高鳴る中、女性が座っていた椅子を引いて腰を下ろした。そして小さく深呼吸をして正面に座る男性を見る。

 当然相手はいきなり座った私を見て驚いている。だけどびっくりしたのはこっちも同じだ。

「え……えっ? 高清水(たかしみず)先生?」

 思わず名前を口にしてしまうと、彼は片眉を上げた。

「俺のことをそう呼ぶということは、うちの病院に勤めているのか?」

「あっ! いえ、そのっ……!」

 ど、どうしよう。まさか結婚を持ちかけようと思っていた相手が、自分の勤め先のドクターだとは、夢にも思わないじゃない?

 それも相手が院長のひとり息子で、後継者の高清水理人(りひと)だったなんて……。いや、たしかさっきオペがどうとか言っていた時点で数えるほどしか聞いたことがない彼の声を思い出して、気づくべきだったのかもしれない。

 高校を卒業後、医療事務の資格を取って受付事務として働いている高清水総合病院は、がんセンターや緊急救命室、さらにはドクターヘリが設置されている病院だ。毎日千人近くの患者さんが外来に訪れている。
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