夢物語
私と君と現実の話
ずいぶん長い事家を空けていた様な気がするけれど、実際には一晩の出来事だった。長い夢の後の気怠さが身体に残っている事以外何も変わらない。いつも通りの朝だった。
身支度を整え、家を出る。まだ朝の早い時間。何の部活にも入っていない普通の生徒であればまだ家を出る様な時間では無かったけれど、でもそれが私の毎日だったから。今日も私はこの時間に学校へと向かう。
来て、くれるだろうか。彼の返事は聞かなかった。来ても来なくても、彼が決めた事ならもうそれで良いと思った。これで終わりにしようと決めていたから。
学校に着いて、階段を上がり、閉まっていた教室の扉に手を掛ける。ガラリと開いた、扉の向こう。しんと静まり返った朝の教室がそこにはあった、けれど。
「おはよう、玉木さん」
「え?……あ、えっと……」
おはようと、言うべきなのは分かっている。けれど言葉が出て来なかった。
なんで? どうして? そんな事ばかりが頭に浮かんでは消え、浮かんでは消え、一向に何も出来ないでいる。ここで待っていると伝えなかったはずなのに。私が勝手に今日で終わりにすると決めたのに。なのに、彼は居た。ここで私を待っていてくれた。