夢物語

私と少年と黒猫さんと森の話


深い森の中に今、私はいる。どうすればいいのかも分からないまま、ただひたすらに歩いている。ずっと足元に続いていくレンガ道だけが頼りだった。

ガサガサガサと、どこかで何かが動く音が至る所でしていて、とても不安だった。多分野生の動物だと思う。生き物の気配を所々で感じるから。けれどまだその存在をしっかりと目でとらえていないのが落ち着かなくて、音がする度に足を止めて、渋々歩き出して、また足を止めて……と、なかなか進まない歩みを繰り返していた。

この森は始めの樹海とは違う。生き物の気配があるし、進むべき道も分かるし、靄で辺りが真っ白な訳でも無い。森独特の暗さや湿度なんかは似ているけれど、変な不気味さみたいなものは無かった。それでもやっぱりどこか不安でそわそわしてしまうのは、きっと、今の私の傍には誰も居ないから。

犬くんも猫さんも気が付くと居なくなってしまったけれど、今あの二人はどこにいるんだろう……そういえば誰かが傍にいる時って、毎回その子と二人きりな気がする。猫さんが居なくなると犬くんが現れて、犬くんが居なくなった今、次はまた猫さんが現れてくれるという事なのだろうか。

……猫さんに会いたいな。

決して犬くんが嫌だったとかそういう訳では無いんだけど、やっぱり私の夢の中でも会っているあの黒猫さんの方が安心出来るのは確かだった。探すのを手伝ってくれると言っていたし、危険な時には助けてくれるのだと信じている気持ちがある。何も分からない状態の今、安心出来る猫さんの存在が恋しい。

ガサガサガサ——

強い風に吹かれて木々が騒めき、頭上では空を覆い隠すほどに茂った葉がわさわさと揺れている。リスがどんぐりを頬張って走っていきそうなこの森の中、ずっと続いていく一本のレンガ道は、一体何処へ向かっているのだろう。

この道は誰かが何かの為に作ったものだろうから、この先にはきっとこの道に関わる存在が居るはずだと思う。この道を行けば分かる事だし、とにかく前に進めば良いだけだと分かっている。

……でも、もしこの道を外れたら?
< 69 / 148 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop