君の秘密を聞かせて
「……友達、と?」

 お昼休みがそろそろ終わる十三時二十分、ようやく蓮くんに井上さんのことを切り出すことができた。

 〝もしよければ、明日はクラスの子とお昼を食べてもいいでしょうか〟——その一言を言うのに、私は何度も言葉を飲み込んでしまった。

 そんなことを言ったら、蓮くんはもしかしたら「お昼休みは僕と一緒にいてほしいんだけど」と怒るかもしれない。または、「友達って言うけどそれはうそで、本当は僕と一緒にいたくないんじゃないのかな」と勘繰られるかもしれない。嫌な妄想が広がって、先ほどから蓮くんの顔色を伺っては諦めて、を繰り返していた。

 でも、蓮くんの返事は明るいものだった。

「もちろんだよ。そんなに仲のいい友達がクラスにできてたなんて、うれしいな」

 そう言って、顔を綻ばせる。

 なんだ。気にすることなんかなかったみたいだ。その表情を見て、ほっと胸を撫で下ろしてしまった。

 ただ、問題はそれだけじゃなかった。

 それは、いつも胸の中に潜んでいる、修ちゃんの葛藤。

 クラスの人とも、誰とも仲よくしない……それは修ちゃんが亡くなった時に決めた、私の決まりごとだったのに。

 ただでさえ蓮くんとだって仲よくしてしまっている今なのに、井上さんに誘われて、つい頷いてしまって。

 それで、いいのだろうか。

〝ハッピーに生きるかな〟

 井上さんは、たしかにそう言っていたけれど。自分のせいで誰かが亡くなったら、その人の分まで幸せになる……なんて。

 私はそうやって生きていくの?

 蓮くんや井上さんと、仲よく楽しく生きていくの?

 たしかに修ちゃんも、それを望むかもしれないけれど……。

「楽しんできてね」

 蓮くんが、じっと私を見つめて言った。

 念を押すような言い方。

 それに、ゆっくりと頷いた。もしかしたら、まだ迷っている気持ちが顔に出ていたのかもしれない。

 本当はどうしたらいいのかわからない。

 でも、せっかく誘われたのだから、という気持ちがどんどん強くなっていく。井上さんの笑顔に癒されている、自分に気づく。

 井上さんと一緒にご飯を食べてみたい。

 ……私はどうするのが、正解なんだろう。

「友達って、なんて子?」

 ぼんやりとしていると、蓮くんがふと聞いてきた。

 はっとして顔を上げる。

「……うちのクラスの女の子。たぶん、蓮くんは知らないと思うけど……」

「うん。でも、芽依ちゃんのことはなんでも知っておきたくて」

 苦笑いをしそうになるのを抑えて、答えた。

「井上葉月さんっていう子」

 そう言うと、蓮くんの眉が、ぴくりと動いた気がした。

 そのまま、黙ってしまう。静まった二人の間に、階下から聞こえてくる生徒たちの声だけが響いている。

 いつもとはどこか違うその反応に、つい、聞いてしまった。

「……井上さんのこと、知ってるの?」

 すると、蓮くんは少しの間を置いて答えた。

「うん。昔さ、同じ塾に通ってた。明るい子だよね」

 ……塾、に?

 蓮くんは遠い目をして、過去を思い出すかのように黙っている。

 なんだろう。

 何かあったのだろうか。

 蓮くんは、しばらく思案するように目を細めていると、いきなりこちらを振り向いた。

「……そうだ。いいこと思いついた!」


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