君の秘密を聞かせて
 *



 それから、話は四人で再開された。

 さっきとは異なり、話題はすっかり恋愛モードになってしまった。

 心を開きかけたのも束の間、また萎縮してしまう私。それを和ますように、井上さんが場を盛り上げていた。

「うちらはね、私が告白したの。去年の夏くらいだったかなー」

 井上さんは恥ずかしがることもなく自分たちの出会いを語る。それを長谷くんは、一言も口を挟まずに聞いていた。

 たぶん、長谷くんは恋バナが苦手だ。元々お喋りなタイプじゃないのもあるだろうけど、今はそれが顕著のようで、さっきから口元に寄せたコーヒーのカップが離れない。

 ただ、もういろいろと諦めているのか、井上さんが話す自分たちの話を止めることはしなかった。

「優馬がカッキーンってホームラン打つ瞬間、何度も見てさ。かっこいいなーって。あれ誰?って思ったらうちのクラスの優馬じゃん、ってね。不覚にも心奪われちゃった」

「はーちゃん、バレー部でしょ。野球部の試合、体育館から見てたの?」

「そうそう。休憩のタイミングでこっそり。私、視力2ですから」

 私は笑ったり頷くだけで、喋っているのは主に井上さんと蓮くんだった。私も井上さんと長谷くんの恋愛話に興味はあるけれど、何せ緊張してしまって言葉が出てこない。

 長谷くんはというと、特別嫌そうな顔はしていないけど、ずっと黙って二人の会話を聞いている。

 かと思うと、きりがいいところでさっと口を開いた。

「相澤たちは? どうして知り合ったの」

 とうとう来た、と思った。一気に体が固くなる。

 長谷くんの問いかけは私と蓮くんのどちらに聞いたという感じはなかったけれど、私は何も切り出せなかった。

 いつかこちらのターンが来ることはわかっていたのに、何をどう言えばいいのかわからない。井上さんたちには悪いけれど、そもそも話したい、とも思えなかった。

 私も、長谷くんと同じで恋バナが苦手なんだ。

 人の話を聞いたり、妄想のデートコースを話すのはいいんだけど。自分のリアルな恋バナとなると、恥ずかしくなって急に口が重くなる。

 仮に私が蓮くんと本当に付き合っていたとしても、自分たちの馴れ初めなんてとても話せたものじゃない。

 それを見越していたのか、蓮くんがすぐに口を開いた。

「僕が、芽依ちゃんのことを知って。好きになって、告白したんだ」

 井上さんが、ヒュウ、と唇を鳴らした。

「やだぁー、詳しく聞きたい!」

「あんた、告白とかするんだ。される方かと思った」

「そんなことないよ」

 場が異様に盛り上がるものの、私は変な汗が出て、ひたすら追加されたジュースを飲むことしかできなかった。

 他の話題だったらがんばって喋るから、ここだけは蓮くんにまかせてしまいたい気持ちだった。

「ただ、僕たち付き合ってるわけじゃないんだ。今、保留中だから」

「え、なになに? なにそれ、どーゆーこと?」

「なんていうか、芽依ちゃんは……」

「あ、待って! 相澤さんから聞きたいっ」

 井上さんが私に視線を移す。どきっとして、体が固まった。

「……あの」

 三人の視線が集中して、ますます動けなくなる。

 呼吸もままならない私をよそに、井上さんは続けた。

「保留ってことは、考え中ってことだよね。即答できないのは、もうちょっと仲よくなってからー、みたいな感じ?」

 私が話しやすいように質問を変えてくれるものの、どうにも頭が回らない。

 なんとかふるふると首だけを振ると、別の質問が飛んできた。

「あ、じゃあ、もしかしてタイプじゃない?」

「……う、ううん……別に、そういうわけじゃ」

「だよねぇ、ほら、こんなイケメンそうそういないもん。たぶん蓮が告白したら、学校中の女子全員が断らないと思う」

「そんなわけないでしょ、はーちゃん」

 そういうことじゃない。

 たしかに蓮くんは、格好いい。そして内面も、すてきな人。

 性格は穏やかで、気配り上手で、私の不安をすぐに察知して困っていることを解決しようと考えてくれる。私なんかには、もったいない人。

 だけど……。

 ……私が蓮くんの気持ちに応えられないのは、蓮くん自身とは関係、ない。

「あー、もしかして恋愛とか、まだ興味ない感じ? でも高校生、今が華なんだからさ、楽しまなきゃ! 好きじゃなくてもとりあえず付き合っちゃうのはどう? それともさ、他に好きな人でもいる?」
< 26 / 52 >

この作品をシェア

pagetop