君の秘密を聞かせて
*
翌日は、仮病で学校を休んでしまった。
健康優良児で小さい頃から学校を休むことのなかった私が、朝になってもベットから出てこない。その異常事態に、お母さんはすぐに対処してくれた。
すぐに学校に休みの連絡を入れ、朝から何度も私の部屋を訪れた。
「芽依、大丈夫……? ゼリー持ってきたわよ。いちごミルクも。気が向いたら、口にしてね」
「ありがとう……でも、大丈夫、だから」
「何かあったら、すぐ呼ぶのよ」
お母さんは私が風邪をひいたわけじゃなくて、気持ちのうえの何かなのだとすぐに察したようだった。だから、半分涙声の私にかまいすぎず、様子を見に来てもすぐに部屋を出ていった。
私がこんなふうになったのは二度目だから、こんな時に私がどうしてほしいのかわかっているんだ。
一度目は、修ちゃんが亡くなってからの数週間。その時と同じように、お母さんはそっと寄り添うように、私のことを見守っていた。
そんなお母さんの気遣いに甘えながら、私は立ち上がる気力も食欲もなく、一日をベッドの中で丸まって過ごした。
そしてずっと、蓮くんと井上さんの会話を思い返していた。
〝修二のお願いでしょ?〟
〝修二が悲しむよ〟
二人は、修ちゃんのことを知ってたんだ。
どういう関係かはわからないけれど。少なくとも学校関連ではないはずだ。私は中学一年生の時この学校に入学してきて、高校に上がる前に校内で二人の名前を聞いたことはなかったから。
三人には何かしらの関係性があって。そして二人は、修ちゃんにお願いされたのかもしれない。
——私と蓮くんが、〝くっつく〟ように……。
頭が痛くなって、布団を思い切り頭からかぶった。真っ暗な世界で、私も闇の中に溶けて消えてしまいたい気分だった。
蓮くんは、修ちゃんに頼まれて私に恋をしていたんだ。
いや。恋をする……ふりを、していたんだ。
そうだ。よく考えたら、全部がおかしかった。
会ってすぐに告白したり、会ったこともない私のことを好きだと言ったり。
そんなこと、あるわけないのに。蓮くんならもっとかわいい、それこそ井上さんみたいな人と付き合うこともできるのに。
もしかしたら、修ちゃんの〝お願い〟のせいで、付き合っていた蓮くんと井上さんが別れる……なんて惨事すらあったのかもしれない。
涙が止まらない。
私、ばかだった。
蓮くんみたいな人に好かれて、調子に乗っていた。
私では釣り合わない、私にはもったいない人だって、最初からわかっていたのに。
調子に乗って、……いつのまにか蓮くんが、ずっとそばにいてほしい存在になっていた。
バチが当たったのかもしれない。修ちゃんを不幸な目に遭わせた私が、身勝手に幸せになろうとしていたから。
騙されて、恋心を裏切られても仕方ないんだ。
ごめんね。
ごめんなさい、修ちゃん。
全部、私が悪かったの……。
いつのまにか、私は泣き疲れて眠っていた。
窓の外は暗くて、カーテンの向こうに夜の闇がゆらゆらと蠢いていた。
ローテーブルの上には、いろんなお菓子やおにぎりが置いてあった。朝にあったゼリーやいちごミルクはもうない。お母さんが何度も様子を見にきては、どれなら口に入れられるだろうかと差し替えてくれていたのだろう。ずっと気遣ってくれていたことに、胸が痛んだ。
今何時なんだろうと、スマホを見る。そこで、通知ボックスが新着情報で埋まっているのに気づいた。
着信もチャットも、複数回。通知ボックス上には詳細は表示されないけれど、『その他二十四件の通知』と書かれているのを見る限り、何度も時間を置いて連絡が来ていたのがわかる。
誰からかは見なくてもわかるし、見る勇気はなかった。
ただ、一番新しいチャットの文章だけは通知ボックスに表示されるから、目に入れたくなくても目に入ってしまった。
〝ごめんね〟
……私ずっと、謝られるようなことをされてたのかな。
また泣きたくなって、お母さんが持ってきてくれたジュースを一口だけ飲むと、現実から逃げるように布団を被った。
翌日は、仮病で学校を休んでしまった。
健康優良児で小さい頃から学校を休むことのなかった私が、朝になってもベットから出てこない。その異常事態に、お母さんはすぐに対処してくれた。
すぐに学校に休みの連絡を入れ、朝から何度も私の部屋を訪れた。
「芽依、大丈夫……? ゼリー持ってきたわよ。いちごミルクも。気が向いたら、口にしてね」
「ありがとう……でも、大丈夫、だから」
「何かあったら、すぐ呼ぶのよ」
お母さんは私が風邪をひいたわけじゃなくて、気持ちのうえの何かなのだとすぐに察したようだった。だから、半分涙声の私にかまいすぎず、様子を見に来てもすぐに部屋を出ていった。
私がこんなふうになったのは二度目だから、こんな時に私がどうしてほしいのかわかっているんだ。
一度目は、修ちゃんが亡くなってからの数週間。その時と同じように、お母さんはそっと寄り添うように、私のことを見守っていた。
そんなお母さんの気遣いに甘えながら、私は立ち上がる気力も食欲もなく、一日をベッドの中で丸まって過ごした。
そしてずっと、蓮くんと井上さんの会話を思い返していた。
〝修二のお願いでしょ?〟
〝修二が悲しむよ〟
二人は、修ちゃんのことを知ってたんだ。
どういう関係かはわからないけれど。少なくとも学校関連ではないはずだ。私は中学一年生の時この学校に入学してきて、高校に上がる前に校内で二人の名前を聞いたことはなかったから。
三人には何かしらの関係性があって。そして二人は、修ちゃんにお願いされたのかもしれない。
——私と蓮くんが、〝くっつく〟ように……。
頭が痛くなって、布団を思い切り頭からかぶった。真っ暗な世界で、私も闇の中に溶けて消えてしまいたい気分だった。
蓮くんは、修ちゃんに頼まれて私に恋をしていたんだ。
いや。恋をする……ふりを、していたんだ。
そうだ。よく考えたら、全部がおかしかった。
会ってすぐに告白したり、会ったこともない私のことを好きだと言ったり。
そんなこと、あるわけないのに。蓮くんならもっとかわいい、それこそ井上さんみたいな人と付き合うこともできるのに。
もしかしたら、修ちゃんの〝お願い〟のせいで、付き合っていた蓮くんと井上さんが別れる……なんて惨事すらあったのかもしれない。
涙が止まらない。
私、ばかだった。
蓮くんみたいな人に好かれて、調子に乗っていた。
私では釣り合わない、私にはもったいない人だって、最初からわかっていたのに。
調子に乗って、……いつのまにか蓮くんが、ずっとそばにいてほしい存在になっていた。
バチが当たったのかもしれない。修ちゃんを不幸な目に遭わせた私が、身勝手に幸せになろうとしていたから。
騙されて、恋心を裏切られても仕方ないんだ。
ごめんね。
ごめんなさい、修ちゃん。
全部、私が悪かったの……。
いつのまにか、私は泣き疲れて眠っていた。
窓の外は暗くて、カーテンの向こうに夜の闇がゆらゆらと蠢いていた。
ローテーブルの上には、いろんなお菓子やおにぎりが置いてあった。朝にあったゼリーやいちごミルクはもうない。お母さんが何度も様子を見にきては、どれなら口に入れられるだろうかと差し替えてくれていたのだろう。ずっと気遣ってくれていたことに、胸が痛んだ。
今何時なんだろうと、スマホを見る。そこで、通知ボックスが新着情報で埋まっているのに気づいた。
着信もチャットも、複数回。通知ボックス上には詳細は表示されないけれど、『その他二十四件の通知』と書かれているのを見る限り、何度も時間を置いて連絡が来ていたのがわかる。
誰からかは見なくてもわかるし、見る勇気はなかった。
ただ、一番新しいチャットの文章だけは通知ボックスに表示されるから、目に入れたくなくても目に入ってしまった。
〝ごめんね〟
……私ずっと、謝られるようなことをされてたのかな。
また泣きたくなって、お母さんが持ってきてくれたジュースを一口だけ飲むと、現実から逃げるように布団を被った。