きみがいる、この世界で。
クラスの朝礼が終わり、一限目に備えてもらったばかりの教科書の束から英語の教科書を探していた時、
「泉本さん!!」
前に座っている女子生徒が勢いよく振り返った。
「2年3組にようこそ~! ”涼音”って名前、めちゃくちゃ可愛いね。涼音ちゃんって呼んでもいい!?」
「あっ、はい、もちろんです」
「『はい』って! 同い年なのにどうして敬語なの~」
女の子はケラケラと笑う。
「私、石川友梨っていうの。男子には”いっしー”、女の子には”友梨っぺ”とか”友梨”とか適当に呼ばれいるから、呼びやすいように呼んでね」
「わかった。ありがとう……」
「涼音ちゃんはさ、どこから」
「あー、友梨。もう泉本さんと話してる!」
その時、背後から両肩を軽く掴まれる。驚いて振り向くと、茶色い髪の毛と同じ、茶色いまん丸の瞳をした女子生徒が、「初めまして!」と笑いかけてくれた。
「岡本加菜です。仲良くしてね?」
「私、泉本涼音です。よろしくお願いします」
「『よろしくお願いします』って! 礼儀正しいね~ 『よろしく!』でいいじゃん!」
加菜ちゃんの言葉に、友梨ちゃんも「でしょでしょ! さっきも敬語だったんだよ~」と笑う。
「あ、あれだ、もしかして涼音ちゃん、お嬢さん? お金持ちだ?」
「違うよ! 緊張してただけだよ」
「本当かな~、髪の毛サラサラだし、お嬢さんのオーラあるよね」
「ね! 髪の毛綺麗! 何のトリートメント使ってるの?!」
返事をする間もなく、友梨ちゃんと加菜ちゃんは話を進める。
「あ、えっと、」
「こらこら。泉本さん、すっごい困り顔だよ~」
隣の席に、黒髪でショートカットの女子生徒が座る。「大丈夫?」と気遣いの言葉をかけてくれた後、「私、森川奈々」と名前を教えてくれた。
「何の話してたの?」
「泉本さんの髪の毛が綺麗だね、って話! 奈々も思わない!?」
加菜ちゃんの言葉に、森川さんは「ロングなのにサラサラだよね~」と誉めてくれた。
結局一限目の予鈴がなるまで、みんなの髪の毛のケアの話で盛り上がった。少しの時間だったけれど、なんでもない話を友達とできたことが久しぶりで、嬉しくて、なんだか懐かしくて、なぜか少しだけ泣きたくなった。