きみがいる、この世界で。
次の日からも、陶山はお昼になると「一緒に食べようぜ」と席まで誘いに来てくれた。晴れの日は中庭で、雨の日は昼休みは使われていない選択教室で食べる。やっぱり誰かと一緒に過ごす休み時間は、一人で過ごすよりも楽しい。サッカー部の対立は少し落ち着いたようで「主将と副主将が普通に話しているだけで安心する」と陶山は複雑な表情をした。
一緒にお弁当を食べていると、クラスメートやサッカー部の人たちに見られることもある。陽気な性格の陶山はとにかく友達が多いから声をかけられることも多い。「何、彼女?」と冷やかされるたびに焦って否定しようとする私とは違い、女子生徒から人気があるらしい陶山は冷やかしすら慣れているのか「違うよ、俺が誘って一緒に飯食ってるだけ」といつも通りの爽やかな笑顔で返す。真っ直ぐな陶山の隣にいる時間だけは、私も少しだけ、真っ直ぐ生きられるような気がした。
陶山と一緒にお弁当を食べるようになって二週間も立つと、彼と一緒に昼休みを過ごすことに少しだけ慣れてきた。最近陶山はグミにハマっているらしく、毎日コンビニで新しいグミを買ってくる。私は普段あまりグミを食べないし、大好きというわけでもないけれど、食べ比べをして感想を言い合う時間は楽しかった。
さっき食べたグミは、自分の中でトップに入るぐらい美味しかった。少し硬めの歯応えで、噛んだ瞬間、少し甘めのピーチの味が口いっぱいに広がる。陶山は「ちょっと甘すぎだな」と微妙な顔をしていたけれど。
今日の帰り、私もコンビニに寄ってグミを探してみようかな。
更衣室で体操服に着替えながらどこのコンビニに寄ろうか考えていた時、強く肩を叩かれた。
千枝と、佳奈美。
「ねえ、馬鹿にしてんの?」
振りむくと同時に、千枝は私を睨みつけながら言い放つ。あまりの声の大きさに、ヒュッと鋭く息を呑む。
「嫌がらせのつもり? 本当に性格悪いよね」
「何、が」
「陶山のこと」
真っ赤な顔をしたまま、千枝はスマホを操作すると、私に画面を見せる。そこには、中庭のベンチで並んで座り、お弁当を食べている私と陶山が写っていた。
「これ、どういうこと?」
「どういうこと、って」
「どうして陶山と一緒にいるの?」
「それは」
元を言えば、陶山が「気分転換をしたい」と誘ってくれたからだった。でも、この理由は言えない。「誰に
でも言える話じゃない」と言っていたし、その気持ちはとてもよくわかるから。
黙ってしまったことに余計に腹を立てたのか、千枝は私の背後にあるロッカーを蹴った。更衣室中に響いた大きな無機質な音に、周りにいた女子生徒たちがこちらを見る。
「まさか付き合ってるんじゃないよね?」
「付き合ってない」
「それなら何? やっぱり嫌がらせ? 私が好きだって知りながら、陶山に近づいてんの? あの時から何にも変わらないよね。どうせずっと私のこと、心の中で嘲笑ってたんでしょ。『敵わない恋をして可哀想』って」
「そんな、そんなんじゃない」
「じゃあ、どういうこと!?」
千枝はガシガシと頭を掻きながら、大きく舌打ちをする。
不意に滲んだ涙を堪えるようにうつむきながら小さく深呼吸をすると、「マジでムカつく」と憎しみのこもった声が降り注いできた。
「ねえ」
千枝は真っ直ぐに私を見つめると、辛辣に言い放った。
「もうお願いだから、消えて。一生学校に来ないで」