内臓強化して幸せになります!

前世の記憶

リーヤには前世の記憶がある。
それ自体は特に珍しいことではないようで、リーヤは小さい頃から時折思い出した前世のことを家族に話すことがあっても家族はニコニコと聞いていた。
しかし思い出す事が楽しいことばかりではなかったため、リーヤはだんだん前世について話さなくなっていった。
前世持ちはそういうものらしく、家族もそれについて特に気にする事はなかった。
10歳になった日、将来について聞かれた
リーヤは『魔法庁に入る』と言い出した。
時期が来たら村の幼馴染と結婚するものだと思っていた家族は騒然となった。
この世界は万物が魔力を帯びている。故に食事や呼吸の度に微量ながら魔力が体内に蓄積される。体質によって排出されやすい、されにくいの別はあるが、稀に排出されず魔力が溜まり続ける者もいる。
その魔力を上手に利用できる者が台頭し始めると、魔力に対する研究が始まった。
その唯一にして最高の機関が魔法庁である。
魔法庁は魔力を持つ優秀な人材を集めてあらゆる研究をしており、民の暮らしを守り、そして豊かにするべく日々研鑽を重ねている。
そんなエリート集団にリーヤが仲間入りするのは、無謀と思えた。
「でもリーヤ。お前にはそんなに魔力がないだろう」
父親は大きな体を窮屈そうに丸めてリーヤの肩に手を置く。リーヤの家系は魔力があまり蓄積しない家系だ。それでもリーヤは他の兄弟よりは魔力が多いほうではある。だが、それもエリートに比べればいかにも物足りない。
万が一運良く魔法庁に入れたとしても、辛い思いをするのではないか。
父親は可愛い末っ子のリーヤにいらぬ苦労をかけたくなくて、太い眉をひそめる。
そんな父親を見たリーヤはあっけらかんと笑ってみせる。
「大丈夫、わたし、魔法庁でやりたいことがあるの!」
家族の不安をよそに、リーヤはそれから魔法庁に入庁するために独自の努力を重ね、16才になった年、難関と言われる筆記試験を通過した。
それは村初めての快挙であり、リーヤは神童だと胴上げされた。
村長も長いあごひげを扱きながら言祝ぎにやってきた。
「リーヤ、ここまで来たら是非魔法庁に受かってくれ。そしてこの村に大いに恩恵を授けて欲しい」
面接を含む最終試験に臨む若干16歳のリーヤに対して重荷ともいえる期待をかけた村長に、リーヤは眉をひそめた。
「でもわたしは美味しくご飯を食べる研究をしに行くだけだから、恩恵とか無理かな」
魔法庁を目指すならば、さぞや高尚な目標があるに違いないと思っていた村長や家族は顎が外れんばかりに驚いた。
「ご、ご飯が美味しく食べたいなら……なにも魔法庁に行かなくても」
母親が控えめに口を挟むが、リーヤはいいや、と口をへの字にして首を横に振る。
「それだけじゃダメなの。もっともっと無駄なく美味しく食べるためには、内臓をどうにかしないと!」
「な、内臓?」
そう内臓、と肯定したリーヤはその後最終試験に見事合格し、魔法庁の門をくぐることとなった。
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