【完結】厭世子爵令嬢は、過保護な純血ヴァンパイアの王に溺愛される

第12話 吸血衝動

 吸血の瞬間を目の当たりにしたエリーゼは、咄嗟に自分の部屋へと逃げ帰るように駈け込んでいた。

「はぁ……はぁ……」

 走ってきた鼓動の速さと見たものの衝撃で息があがり、ドクドクと心臓が悲鳴を上げる。

(吸血、してた)

 エリーゼはランセル子爵家にいた頃はまわりにヴァンパイアがいなかったこともあり、吸血を実際に見るのは初めてだった。
 そこでエリーゼはある事に気づいた。

(私、幼い頃から吸血したいと思ったこと、ない……)

 ヴァンパイアは比較的血の濃い者であっても定期的に吸血衝動が現れる。
 それが自分には不思議とないことに、今気づいた。

(どうして? なんで吸血したいと思わないの?)

 自分の体質の疑問と同時にもう一つの疑問も現れた。

(じゃあ、ラインハルト様は?)

 ヴァンパイアの王であることから考えると、吸血の必要はないのかもしれない。
 しかし、それについて確信はなく、エリーゼはその真実を知りたいと思った。
 エリーゼが次に取る行動は一つだった。

(ラインハルト様に聞いてみよう)

 エリーゼはラインハルトの自室へと歩みを進めた。



 一つ深呼吸をしてエリーゼはラインハルトの部屋のドアをノックした。
 すると、中から先程までカフェで一緒だった彼の声が聞こえる。

「エリーゼかい?」
「はい、今よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。入っておいで」

 エリーゼはドアノブにゆっくりと手を掛けると、そっと中を伺うように扉を開いた。
 入室したそのままの足でラインハルトに近づいていく。

「珍しいね、エリーゼが私を訪ねてくるなんて。私が恋しくなったかい?」

 そんな誘い文句もエリーゼの耳には届いていないようで、頭の中を占領する言葉を投げかけた。

「教えて欲しいんです、私にはどうして吸血衝動がないのか」

 その言葉にラインハルトは持っていたペンの手を止めて、表情を曇らせる。
 エリーゼは彼の様子から、これは何かあると感じ取った。

「……本当に知りたいかい?」

 ラインハルトはその真紅の目でエリーゼを見つめる。
 その表情は憂うようなそんな表情だった。

「はい、私は”私”のことが知りたいです」

 エリーゼのその覚悟を持った目を見たラインハルトは、そっとペンを置いて語り始めた。
 彼女の持つ秘密を──
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