【完結】厭世子爵令嬢は、過保護な純血ヴァンパイアの王に溺愛される

第7話 真っすぐな想い

 ラインハルトは日が落ちる頃に目を覚ますと、ゆっくりとその身体を起こした。
 隣には彼が見繕った服を着たエリーゼが安心した顔で眠っている。
 ラインハルトはゆっくりと彼女の頭の先から髪をなでるように触ると、そっと起こさないようにベッドから出た。
 ドアを開けて執務室のほうに足を向けるとその先にはアンナが目を見開き立っている。

「──っ!」

 彼女はひどく顔をゆがめると、その場でラインハルトが来るのを待つ。
 両者がすれ違おうというところで、彼女はぼそりと呟いた。

「あの方の部屋で一晩過ごしたのですね」

 それに対してラインハルトは何か気にすることもなく、自室に入ろうとしながら呟く。

「だったらどうなんだい?」
「──っ!」

 アンナは自室に入ったラインハルトに背中から思いきり抱き着く。
 ラインハルトはそのアンナの行動に何をするわけでもなくただじっと立ち尽くす。

「アンナは納得できませんっ! あんな女がラインハルト様の妻になるなんてっ! どうして……どうして、子爵令嬢で人間だったようなやつを」
「彼女を愛している。これで納得できるかい?」
「できませんっ!!」

 アンナは両腕を緩めてラインハルトを解放する。
 彼女と対話するためにこちらを向くラインハルトは、無表情のままアンナを見つめる。

「吸血したのですか?」
「いや、彼女にはしてないよ」

 その言葉を聞いてアンナはそっと洋服の首元をめくると、首筋を露わにして言う。

「アンナの血を飲んでください」
「できない」
「どうして?!」
「もらうに相応しい男ではないよ、僕は」

 反射的にアンナはラインハルトに飛びつくと、彼の胸元に顔をうずめる。

「なんでっ! なんでこんなにもずっと好きなのに求めてくれないのですか?!」

 彼女の叫びを黙って聞き続けるラインハルトに、アンナは言葉を続ける。

「アンナは……アンナはずっと、いつでもラインハルト様だけを見続けてきました。あなたを屋敷で見たあの日からずっと、ずっと好きです。私じゃダメなのですか?」

 すがるように涙を流して訴える彼女をそっと引き離すと、ラインハルトは諭すように言う。

「僕はアンナのことを本当に信頼している。それはクルトも同じだよ。僕をずっと傍で支えてくれた。けれど、隣に立つのはエリーゼしか考えられない。ごめん」
「──っ!」

 『信頼』という耳触りの良い言葉で拒絶するラインハルトの言葉に、アンナは唇をかみしめて俯く。

「私のこと、特別に思ってくださることはないのですね」

 アンナが声を震わせながら言った言葉に、目を合わせて彼女を見つめるラインハルト。
 その通りだというような彼の目に、アンナはそっと「わかりました」と告げて部屋を去る。


 ダークブラウンの長い髪は泣きはらした自身の目を隠す。
 部屋を出てまっすぐに彼女は自室へと足を向けて進んだ。

 廊下で弟がその様子を静かに見守っていたことも知らずに──
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