S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
元フィアンセと奇跡の再会
『俺が花詠と結婚します』
それは、つい一時間前のこと。元許嫁の彼は、約二十年の時を経て再び私との婚約を所望した。
業務連絡のごとく淡々と、甘さのない声で。
幼い頃、勝手に決められていた結婚話は、家同士に確執が生まれたせいでこれまた勝手に解消されていた。その当時から現在まで、わが暮泉家とお相手の石動家はいがみ合う関係が続いている。
両家のいざこざに巻き込まれた子供の私たちも、何年も関わるのを避けていた。
ところが、ワケあって今日はお互いの家族が集まり、話し合い兼食事会が行われている。会場となったのは私の実家が経営する老舗旅館の広間だが、なかなかに険悪なムードだった。
その最中、突然彼が私と結婚すると宣言したものだから、皆が仰天した。
これは両親たちの事業のため。両家の仲を改善させ、協力関係を築くための手段にすぎない。
『ふたりは俺たちを見兼ねて結婚すると言ってくれたんだ。昔のいざこざは一旦忘れて、今は協力し合うとしよう』
石動家のお父様はそう言い、彼の結婚宣言のおかげで長年絶交状態だった父たちの関係に変化が表れ始めた。
でも、私たちの間に愛は──。
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