S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 少しほっとしつつ話を聞くと、彼はイレネーさんという名前で、明日日本へ行く予定だったのに、急用が入って断念せざるを得なくなってしまったそう。

 日本にいる友人と会い、大事なものを渡すつもりだったので困っているらしいが、そんなに悩むことではない気がする。


「荷物、宅配便で送ればいいんじゃないですか? あ、宅配便ってわかるかな……」
「マイフレンド、中国二住ンデル。日本デ会ウ約束」


 翻訳アプリを使おうとする間もなく、彼は小さく首を横に振ってそう答えた。

 なるほど、お互い別々の国にいて日本で落ち合おうとしていたのか。でも、急ぎじゃないなら中国の家に送ればいいのでは?

 そう提案しようとすると、彼はスマホの画面を見せてくる。映っている中国人らしき男性が友人だろうか。


「明日、コイツ羽田ニイマス。アナタガ渡ス、デキル?」
「私が⁉」


〝コイツ〟という日本語のチョイスに笑いそうになったのもつかの間、ギョッとして顔を上げた。

 たった今会ったばかりの人の荷物を預かってまた知らない人に渡すなんて、そんな責任の持てないことはできない。この人も、どうして大事なものを他人に預けられるの?
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