S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
純米吟醸の冷酒をお酌すると、彼は香りを確かめてひと口含み、目を丸くした。
「こんなに美味しい日本酒、初めてです。ヴァン・ブランみたいだ」
感動している様子の彼に続いて、エツがフランス語の説明をしようと口を開く。
「ヴァン・ブランっていうのは……」
「白ワイン、ですよね」
これは約一年前、彼の部屋で晩酌をした時に教えてもらったので覚えている。得意げにエツを見やると、彼も当時のことを思い出したらしく、ふっと笑みを浮かべて頷いた。
白ワインのようだという感想は、まさに私が意図していたものだったので嬉しくなる。
「おっしゃる通り、香りもマスカットのようで白ワインに似ているので、海外の方も馴染みやすいかと思いまして。もっと甘いものも、きりっとしたお味のものもありますので、お好みのお酒をご用意いたします」
「ありがとう。カエさんはお酒のことよく知ってるんですね」
感心したように言う彼は、お猪口を軽く掲げてみせる。
「旅館では女将さんも一緒に飲んでくれると聞きました。カエさんもどうですか? エツトもあなたと知り合いだと言っているし」
「ぜひ! 私、お酒に詳しいだけじゃなくて、大好きなんです」
喜んで承諾して正直に明かすと、ラヴァルさんはおかしそうに笑った。一方、エツはいたずらっぽく口角を上げる。