S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「ラヴァルさん、彼女を甘く見ないほうがいいですよ、酒豪ですから。酒豪っていうのは、フランス語でgrand bu……」
「ちょ、イメージを崩すようなこと言わない! で、ください」
つい普段通りに返してしまいそうになって敬語をつけ足す私に、エツは笑いを噛み殺している。そんな私たちを、ラヴァルさんは観察するように眺めて言う。
「ふたりは仲がいいんだね」
「「そんなことありません」」
咄嗟にそう答えたら声が重なり、エツと目を見合わせる。口では否定しながらも気が合うのを証明してしまったようで、ラヴァルさんはクスクスと笑っていた。
結局三人で飲むことになり、お酌をし合って私もありがたくいただく。彼は本当に気さくで、すぐに打ち解けることができた。
「ラヴァルさん、日本語が本当にお上手でびっくりしました」
「ありがとう。昔から教えてもらっていてね」
「そうなんですか」
お箸も上手に使う彼の言葉に、エツが「親戚に日本人がいるらしい」と補足してくれた。
それでこんなに喋れるのか、と納得していると、エツが静かにお猪口を置いて口を開く。