S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「これだけ流暢なんですから、今日俺は必要なかったんじゃないですか? 通訳いらないでしょう」
「エツトに来てもらったのは通訳のためじゃないよ。いつか日本のアニメについて語ろうって言ったじゃないか」
「俺はたいしてアニメに詳しくないとも言いました」
「カメハメハー!なら知ってるだろう?」
「……知ってます」
開いた両手を上下に合わせた有名なポーズをするラヴァルさんと、淡々と返すエツの温度差に、私は笑いを堪えることができなかった。
エツは気を遣いながらも、砕けた調子で会話を楽しんでいる。ラヴァルさんも、この部屋に入ってからはエツトと名前で呼んでいるし、思った以上に親しげだ。
私は会社同士のお付き合いのような、もっと堅苦しい関係を勝手に想像していたけれど、どちらかと言うと上司と部下みたいな感じがする。いつの間にかこちらの緊張も解れていて、一緒につかの間の会話を楽しんでいた。
ラヴァルさんは新鮮なお刺身を堪能しつつ、エツとの話をし始める。
「エツトが日本に帰ってしまって寂しいよ。互いの国のいいところも悪いところも、全部話せて楽しいんだ。こんなに遠慮しない日本人は珍しい」
「ええ、本当に。本音をズバッと言うし、根が意地悪だし」
私も遠慮なく言うと、エツの眉間にむっとシワが寄った。きっと本人にもその自覚はあるのだろう。