S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
私は含み笑いして、「でも」と続ける。
「実は人のことをよく考えていて、常に力になってあげようとする、優しい心も持っているんです。私も何度も助けられましたし、領事は彼にぴったりな仕事だと思います」
これももちろん本当のこと。私が好きな、エツの素敵な一面だ。
頬を緩めて話していた私は、エツが真顔でこちらを見ているのに気づいてはっとする。
「あっ、申し訳ありません! どうでもいい話ばかり」
「おい」
エツが即座にツッコみ、ラヴァルさんはぷっと噴き出して「いいんだよ」と快く言った。そして、私のほうに少し身を乗り出してくる。
「ねえカエさん、明日か明後日は休み?」
急に予定を聞かれて頭にハテナマークが浮かぶも、私はキョトンとしたままとりあえず答える。
「いえ、どちらも仕事で」
「それは残念。デートに誘いたかったのに」
肩を落とし、がっかりしたような笑みを見せる彼のひと言に、一瞬固まった私は大きく目を見開く。
「デ、デート!?」
「Il ne peut pas être autorisé.」
正座が崩れそうになるほど驚いて声を上げた直後、エツのフランス語が割り込んできた。