S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
突然どうした?と目をしばたたかせる私と、すっと真剣な表情になったラヴァルさんの視線がエツに集中する。
「Pourquoi?」
「……Parce que je ne veux la donner à personne.」
ふたりがフランス語で会話し始めるので、私は蚊帳の外に追いやられる。
一体なにを話しているんだろう。なんとなくさっきまでの和やかな雰囲気から、張り詰めた空気に変わった気がするけれど……。
じっと正座をしたまま静観していると、ラヴァルさんがこちらに視線を移す。
「そうか、わかった。また今度にしよう。日本に来る機会はたくさんあるしね」
微笑みかける彼は、先ほどの穏やかさに戻っていた。そして、とろけるような翡翠色の瞳で、私をまっすぐ見つめる。
「僕は君が気に入ったよ、カエさん。ずっと日本にいられるなら、毎日会いに来たい」
「……えっ!?」
甘い言葉がぽんぽんと飛び出し、またしても顔が熱くなる。お世辞だとわかっていてもやっぱり動揺してしまい、縮こまりながら「あ、ありがとうございます」とお礼を言うしかなかった。