S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「ていうか、惚れるなんて冗談だよ。私は好きな人とずっと一緒にいたいし、外国にいる人と付き合いたいなんて思わない」
勢いで言い放ち、ひとつ息を吐いたところではっとした。
外交官であるエツだって、外国にいる人のひとり。今の発言はエツと付き合いたくないという意味にも取れてしまう。
しまったと思うと同時に、彼が一瞬傷ついたような表情をかいま見せた気がした。が、それは都合のいい勘違いかもしれない。
気まずさに襲われ、沈黙が流れる。そこへ食事の後片付けをする仲居さんが早足で歩いてきて、私たちは口をつぐんだまま歩き続けた。
ロビーにやってきて、玄関の扉の手前で足を止めたエツがおもむろにこちらを振り向く。その瞳には複雑な色が滲んでいて、私は息を呑んだ。