S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「え、エツ……⁉」
癖のないさらっとした黒髪、視線を合わせたら逸らせなくなるような力を持つ綺麗な二重の目、高い鼻に薄めの唇。
ブランド物のスーツも難なく着こなすスタイルのよさと、内から溢れ出る気品。
現れた救世主は、外見でもステータスでも人々を魅了する外交官、石動悦斗だった。
「……アナタハ?」
目を丸くする私の向かいで、イレネーさんが訝しげにエツを見て問いかける。焦げ茶色の瞳がこちらを一瞥し、約七年ぶりに目を合わせた瞬間、心臓が痛いくらいに飛び跳ねた。
「こいつの許嫁。二十年以上前のな」
〝許嫁〟という単語にドキリとした。今は効力もない昔の約束だけれど、エツが覚えていただけでなんだか胸がくすぐったくなる。
私を見てもまったく驚いていないところからして、助けに入る前から日本人女性は私だと気づいていたみたいだ。まさか、異国の地で本当に会えるなんて。
唖然としていた私は、イレネーさんの左手首を掴んだまま冷静に問いかけるエツの声で我に返る。