S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 まだまだ騒然としている中、涼しげな顔でスーツの乱れを直すエツにお礼を言うべく口を開く。


「エツ、ありが──っ」


 言いながら一歩踏み出そうとした時、足腰の力が抜けてガクンと体勢を崩してしまった。その瞬間、エツが咄嗟に私に手を伸ばす。

 まるでダンスをしているかのように、しっかりと腰を抱いて支えられた。視線の先には、男性にしては肌もパーツも綺麗すぎる顔がある。目元の小さな黒子がわかるくらい近くに。


「大丈夫か?」
「あ、ご、ごめん! なんか腰抜けちゃって」


 接近してドキドキしているのがバレないよう、へらっと笑った。安心したら力が抜けたのは本当で、今になって少し足が震えている。

 エツはなんとも言えない表情で私をじっと見下ろして言う。


「とんだ再会だな」
「ほんとだよ」


 情けない声で返すと、彼はクスッと気を許したような笑みをこぼした。

 ああ……久しぶりに見た。嫌味のない破壊力抜群の微笑み。

 再会するならもっとロマンチックなシチュエーションがよかった、なんて一瞬浮かんだ贅沢な気持ちはあっさり吹き飛んでいった。
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