S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 お互いに腹を割って話したので幾分かイラ立ちは収まり、会食は和やかに済んだ。しかし、帰り際に会った花詠は口説かれるのもまんざらではなさそうで、嫉妬が膨れて棘のある口調で忠告してしまった。

 彼女はそれにムッとした様子で言い放つ。


「私は好きな人とずっと一緒にいたいし、外国にいる人と付き合おうなんて思わない」


 そのひと言は、思いのほか胸に刺さった。ラヴァルさんにではなく、俺に対して言っているように聞こえて仕方がない。

 だが、もうなにがあろうと引きはしない。むしろ、早く想いを伝えたい気持ちが勝り、翌日仕事を終えてから再びひぐれ屋に足を運んだ。

 外堀を埋めて大きな不安要素をひとつ無くしてからのほうが、彼女の気持ちも俺に向きやすくなるだろうと考えていた。しかし彼女に迫る男が現れた以上、悠長にはしていられない。

 花詠はだいたい午後七時過ぎに上がると以前から聞いている。それまで少し時間があるので、茶房で待つことにする。

 暖簾をくぐり、暗めの照明が落ち着いた雰囲気を感じさせる茶房に入ると、仲居と同じ着物を着た若い女性が俺を見て目を丸くした。
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