S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
策士なプロポーズは突然に

 エツと恋人同士になれた夜、離れがたくて少しだけ彼の家にお邪魔した。

 あのすぐ後、棗ちゃんから【私と夕飯食べるってことにしておいていいですよ! 石動さんとごゆっくり】という、ハートつきのメッセージが届いた。茶房での詳しい話を聞いて察するに、私たちが想いを打ち明けたのもお見通しなんじゃないだろうか。

 ちょっぴり恥ずかしいけれど、正直とってもありがたい。気が利く棗ちゃんにはお礼を、母には彼女と急きょ食事をしに行くという旨を送っておいた。

 エツが茶房を飛び出した時に祥もいたらしいし、彼にも気づかれているかもしれない。だとしても両親に告げ口する子ではないし、棗ちゃんが口止めしておいてくれるはず。

 親に嘘をつくのは多少の罪悪感があるけれど、今はとにかく幸せに浸っていたい。

 彼の住処は、外務省から車で十分ほどの麻布にある二十九階建てのタワーマンション。ラグジュアリーなその中を手を繋いで歩いている最中も、足元がふわふわしてまるで夢の中にいるみたいだ。

 二十六階にある彼の部屋は、ストラスブールにいる時とはまた違ってよりスタイリッシュな雰囲気だった。広々としたリビングの窓からは、赤く輝く東京タワーがとても綺麗に眺められる。
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