S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「引くよね、この歳で。でも本当にそんな余裕なかったし、ていうか、エツ以外の人となんて考えられなかったから……」
言い訳がましいかなと思いながら打ち明けていると、髪を撫でていた手は私の頭を自分のほうへ倒し、私はぽすんと彼の胸に収まった。
「よかった。花詠の全部を知るのが俺だけで」
思いのほかほっとした様子の声が聞こえ、胸が軽やかに鳴る。
「世界中のどこを探しても、お前ほど可愛くて愛したい女はいないよ」
とびきり甘い言葉が耳から流れ込んできて全身に染み渡り、心は喜びで震えた。
なんて大袈裟なセリフ。でも、本当に世界を飛び回っている彼だと真摯な愛を伝えてくれているのだと感じられて、私は幸せを噛みしめて彼に抱きついた。
ひとしきりくっついた後は、隣に腰を下ろして帰るまでのつかの間の時間を過ごすことにした。
私はエツの肩に頭を乗せ、彼もそれを受け入れてまったりと話をしている。
「これからしばらくは、まだ犬猿の仲を演じたほうがいいと思う」
「〝逆・仮面カップル〟って感じだね」
表面上は仲睦まじく見せているふたりを仮面カップルや仮面夫婦と呼ぶなら、私たちはそれの逆バージョンだ。