S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 エツは「とりあえずあそこに座ろう」と、噴水の横にあるベンチを顎で示し、腰を支えたまま歩き出した。

 私を座らせると、彼は腕を組み、複数の警察官によって連れていかれるイレネーさんを眺める。


「よかったな、カモにされなくて。荷物を受け取らなかったことは褒めてやる」


 この人が上から目線なのは今に始まったことではない。むしろ七年ぶりに聞くと妙な心地よささえ感じるけれど、それは表に出さずに問いかける。


「カモって、あの人はなにをしようとしてたの?」
「お前に麻薬を運ばせようとしたんだよ」
「麻薬⁉」


 自分とは縁遠いものだと思っていたものの名前が飛び出て、私は思わずのけ反った。エツはそういう悪事を働く人を非難するようにやや眉をひそめる。


「あれを受け取ってそのまま日本に入ってたら、速攻で逮捕されて有罪確定だったぞ。よくある手口だ」
「うそぉ……」


 まさか自分が麻薬取引の片棒を担がされそうになったなんて、衝撃的だしゾッとした。エツが助けに入ってくれなかったらどうなっていたか。

 青ざめる私に、エツは淡々と説明する。
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