S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「フランスは大麻の大量消費国だ。バイヤーも、それを使う若者もゴロゴロいる。最近この辺りで邦人が被害に遭ってるって情報は、警察だけじゃなく領事館にも入ってたから、俺も見回るようにしてたんだが……まさか花詠がいるとは」
流し目を向けられ、名前を呼ばれただけで胸が強く締めつけられる。エツは再会してどう感じているんだろう。
正直私は、すごく嬉しいよ。エツが来た瞬間にもう大丈夫だと思えた。あなたは何度も私を助けてくれた人だから。
「あの、本当にありがとう。すっごい頼もしかった」
今しがた、身を挺して助けてくれた彼の姿を思い返しながら笑みを向けた。
以前はこんなに素直に気持ちを伝えられなかったのに……今は自然と言葉が出てきた。うるさい両親がいない外国だというのと、精神的に大人になったせいかな。
私がしおらしくなって違和感を覚えたのか、こちらを少し凝視していた彼は、ふいっと視線を逸らす。
「別に……お前を守るのが俺の役目だから」
さらりと口にされたひと言に、心臓が幾度となく飛び跳ねた。〝外交官として邦人を守るのが役目〟という意味だとわかっているけれど、そんな風に言われたら勘違いしそうになる。