S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 赤くなっているだろう頬を俯いて隠していると、ひとりの警察官がこちらへやってくる。制帽を被っていて髪はよく見えないが、グレーの瞳で爽やかな印象の顔立ちの若い男性だ。

 彼は私ににこりと微笑んだ後、エツに肩を寄せてなにかを話し出す。


「Ta petite amie?」
「Pas sûr.」
「Ne sois pas timide!」


 ニヤニヤしてエツの背中を叩く彼。もちろん話の内容はわからないが、なんとなくふたりとも知り合いなのかな?という雰囲気を感じる。エツはうざったそうな顔をしているけれど……。

 流暢にフランス語で会話するエツを見て、私は胸をときめかせながら考える。

 大学時代から英語はペラペラだったけれど、フランス語も習っていたのだろうか。外交官はいろいろな国へ配属されるのだし、彼もここに来ると決まってから勉強したのかもしれない。

 とにかくすごいなと、その努力に尊敬しまくっていると、ふいに彼の視線が私に向く。


「今の男とのことで、花詠から少し話を聞きたいらしい。急いでたりする?」
「ううん。飛行機は午後七時発だし、大丈夫」


 腕時計を確認するとまだ午後一時で、パリの空港までの移動時間を含めてもかなり余裕はあるから問題ない。
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