S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 しかし、なぜかエツは眉根を寄せて私をまじまじと見つめてくる。


「今日帰る予定なのか?」
「そうだけど、なに?」


 なんだか表情が浮かないので首をかしげると、エツは「いや、聴取が終わった後でいい」と言って、警察の彼を手で示した。

 不思議に思いつつも、とりあえず警察の質問に答えることにする。エツに通訳をしてもらって、聞き取りはほんの数分で終わった。

 フランス警官の彼は爽やかに「アリガトウゴザイマス」と日本語で言い、エツにもひと言かけて去っていった。広場には再びのんびりとした空気が流れ、私も落ち着きを取り戻してエツに話しかける。


「警察の彼、すごくいい人そうだね。知り合い?」
「ああ。トラブルが起きた邦人の相手をしてると、あいつにもたまに会うんだ。同じ年だし、話しやすい」


 こちらでのエツの交友関係をほんの少し知れて、なんだか得した気分。嬉しく感じながらへえ~と頷いていると、彼は私の隣におもむろに腰を下ろした。


「さっきの話だけど、航空会社と家に連絡しておいたほうがいいぞ。帰れなくなるかもしれないから」
「へ?」


 唐突な話に理解が追いつかず、頭の中にハテナマークを浮かべる私に、彼はポーカーフェイスで淡々と説明する。
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