S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「何年後かにまた石動くんが在外公館勤務になったら、花詠さんはついていく?」
次いで彼女の口から出たのは真面目な質問で、私はまたしてもドキリとした。決断力もありそうな彼女にまだ迷っていることを告げるのは、なんだか後ろめたい気持ちになる。
「……実は、まだ決めかねていて」
「そっか。難しい問題だものね。ゆっくり冷静に決めたほうがいい」
伏し目がちに答えると、私の気持ちを汲んでくれたような言葉が返ってきて少しだけほっとした。
槙木さんはシャンパンをひと口含み、どこか遠い目をして話し出す。
「欧米だとパーティーには夫婦同伴が基本だし、外交官の妻っていろんな国の要人と会うことになるから大変よね。刺激的と言えばそうだけど、もし子供ができたら苦労はさらに増えるだろうし。単身赴任っていう方法もあるから、ついていくことにこだわらなくてもいいと思うわよ」
自らが外交官である彼女の言葉は、どれも重みがあって私の胸にずしりと響いた。
外国についていった場合の覚悟もしているつもりだったのに、改めて聞くと少々怖気づいてしまう。英語を少しかじっただけの私に、妻として彼を支えることが本当にできるのだろうか。