S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
それに、将来子供ができた時も、一家そろって各国転々とする生活をしなければならない。私だけでなく子供も、その土地に馴染めなかったら苦痛を強いられるだろう。
具体的な問題が浮き彫りになって、不安ばかりが湧いてくる。もっとポジティブに考えたいのに、会場も周りの人たちも輝かしいこの場にいるせいもあってか、自分に自信を持てなくなってきている。
目線を落として考えを巡らせていると、槙木さんがはっとして謝る。
「あ~ごめんね! 外野があれこれ言って……ほっとけよって感じよね」
「いえ! 貴重なアドバイス、ありがたいです」
私もぱっと顔を上げ、笑って首を横に振った。彼女は私を元気づけるように肩にぽんと手を置き、明るい口調で言う。
「遠距離になったとしても大丈夫よ。奇跡的にまた石動くんと同じ場所に配属になったら、あなたの代わりに私がちゃんと彼のこと見てるから。安心して」
ニコッと口角を上げて言い、お酒のおかわりをもらいに行く彼女。ぽかんとした私は数秒後、〝いや、安心できません!〟と心の中で叫んだ。
今のって、嫌味じゃないよね? なんか、エツに気があるようにも取れる。本人に自覚があるのかどうか微妙だけれど、遠距離をすすめるのはもしかしたら無意識に私をエツから遠ざけようとしているって可能性も……。