S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
いけない、深読みしてしまって頭の中がごちゃごちゃしてきた。槙木さんも他の参加者に話しかけられているし、気晴らしに庭へ出てみよう。
そう思い立ってテラスのほうへ向かう。すでに暗くなり始めているものの、緑が鮮やかな広い芝生の庭はライトアップされていて美しく、遠くにプールらしきものも見える。
出ている人もわりといるので私もそれに倣おうとした時、会場の隅に置かれたグランドピアノの陰に女の子が隠れているのに気づいた。
明るい栗色の長い髪に青みがかった瞳、レースのついたワンピースを着ている。まるで生きたフランス人形のように可愛らしいその子は、五歳になる駐日大使の娘さん、レアナちゃんだ。
一年前から一家でこちらに住んでいるのだが、現在奥様はふたり目を妊娠中で臨月なのだそう。レアナちゃんが今日のパーティーにママの代わりに参加すると言い張り、特別に連れてきたのだという微笑ましいエピソードを、大使が先ほどのスピーチで話していた。
その時は『レアナデス!』と元気に挨拶していて、人見知りしない子なんだなと感心していたのだが、今はなんだか落ち込んでいるように見える。