S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

「これでよし。帰ったらお洗濯してあげてね」
「アリガトウ!」


 嬉しそうな笑顔でお礼を言った彼女は、手を振ってあっという間に部屋を飛び出していった。戸口から彼女が会場に戻るのを見届けたラヴァルさんが、私のほうを振り返って笑みを浮かべる。


「やっぱりカエさんは素敵な人だね。こんなこともできるなんて」
「そんな、たいしたことでは。わりと知られている方法だと思いますし」
「いや、まずあの子が元気がないと気づいて声をかけたことがすごいなって」


 ラヴァルさんはいつも褒めすぎだ。私は照れつつ、汚れた面を内側にしてハンカチを畳む。


「職業柄ですかね。なにか違った様子の人は、なんとなく目に留まるんです」
「へえ。さすがだね」


 彼は感心したように言い、おもむろにこちらに近づいて先ほどレアナちゃんが座っていたソファに腰を下ろした。

 翡翠のような瞳と視線が絡まり、美しさは健在だとつい見惚れてしまう私に、彼は落ち着いた口調で話し出す。


「思いやりの心って、国や人種を超えて相手に届くものだと思うんだ。だから、そういう心を持ってるカエさんは、エツトと一緒にどんな国に行ってもきっと大丈夫」
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